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遺産について考える~遺産は誰のもの?~

高齢者の金融資産保有目的、遺産動機、被相続人の年齢構成等の図表
出所:内閣府HP〜経済財政白書 第3-1-6図 高齢者の金融資産保有目的、遺産動機、被相続人の年齢構成等〜

 報道によると、相続人が不在で国庫に入る財産が2023年度に1015億円と、2022年度の769億円から32%増え、初めて1000億円を超えました。

 

 この10年間で3倍に増え、年々増加傾向にあります。

 

 背景には、配偶者や子供のいない単身高齢者の増加があり、今後も増え続ける可能性が高いと言われています。

 

 法定相続人がいない場合や相続人が相続を放棄した場合、遺産は国に帰属します。

 

 一方で、子供たちに遺産を相続させることについて、見直す動きが日本でも広がっています。

 

 子供たちに多額の遺産を残すことは、情熱や意欲を奪うという考え方や、資産は「自分が生きているうちに使う」という考え方が背景にあります。

 

 実際、金融広報中央委員会の2023年調査において、高齢者の遺産に関する考え方をみると「財産を使い切りたい」と回答する割合が34%と最も高い動機となっています。

 

 日本でもベストセラーになったビル・パーキンス著の『DIE WITH ZERO』は、人生において大切なのは富の最大化ではなく、経験の最大化だと説いています。

 

 つまり、「ゼロで死ぬ」とは、誰も自分の寿命を予想できませんが、老後のための十分な備えをした上で、人生の最期に資産をゼロにするほど思い切り良い経験をすることで、より豊かな人生を送ろうという考え方です。

 

 法定相続人がいない方や社会貢献した方などにとって有効な選択肢となっているのが、遺言書によって法定相続人以外の特定の個人や団体に遺産を譲渡する「遺贈」です。

 

 自分の思いや価値観に合った団体を選んで寄附することができます。特定の団体への「遺贈」は、相続税の対象とされないなど税制上のメリットもありますが、遺留分には注意が必要です。

 

 なお、含み益がある財産を遺贈した場合、被相続人の準確定申告が必要になる場合があります。

 

 寄附先が特定の団体の場合は、被相続人の準確定申告で寄附金控除が受けられます。

 

 また、遺産を相続した子供が、故人の遺志を引き継いで、国や地方公共団体公益法人などに遺産を寄附した場合は、その寄附した遺産は相続税の対象としない特例があります。

 

 この特例は、相続税の申告期限までに国等に相続や遺贈で取得した財産を寄附し、相続税の申告書にこの特例の適用を受ける旨など必要事項を記載し、かつ寄附した財産の明細書など一定の書類を添付する必要があります。

 

 この場合には、その寄附が遺言に基づくものでなければ、相続人の寄附金控除の対象にもなります。

 

 近年、急速な高齢化社会の進展により、人生100年時代が現実のものとなりつつあります。

 

 高齢者層に金融資産が偏在する背景には長生きリスクへの懸念や高齢者間の資産移転があります。

 

 遺産相続は、人生の最期に自分の財産をどのように扱うかという重要な問題です。

 

 ご自身のライフプランや価値観に合った選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。