2021年、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において合意されたグローバル・ミニマム課税は、法人税の国際的な引下げ競争を抑制し、多国籍企業がどこで事業を行おうとも最低15%の税率を確保するための国際的な取り組みです。
欧州をはじめとした世界各国・地域でグローバルミニマム課税の法制化が進展しており、日本でも2023年度税制改正で、グローバル・ミニマム課税の3つのルールのうち、所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)がすでに導入されています。
IIRは、子会社等の所在地国が軽課税国である場合、日本に所在する親会社等に対して、国際的に合意された最低税率(15%)に至るまで上乗せ課税を行う仕組みです。
2025年度税制改正では、残りの2つのルールである、軽課税国ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)と国内ミニマム課税(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)が導入される見通しです。
軽課税所得ルール(UTPR)
多国籍企業グループの親会社等の所在地国における実効税率が最低税率を下回る場合に、日本に所在する子会社等に対して、その税負担が最低税率相当に至るまで課税する仕組みであり、2023年度の改正で導入された所得合算ルール(IIR)を補完する機能を果たすといわれています。
国内ミニマム課税(QDMTT)
多国籍企業グループに属する会社等について、日本における実効税率が最低税率を下回る場合に、日本において当該会社等(事業体全体)に対して、その税負担が最低税率に至るまで課税する仕組みであり、我が国でQDMTTが課税された場合、IIRやUTPRの課税はされないことになります。
QDMTTは、自国に所在する事業体全体の実効税率が15%未満の場合に、他国において上乗せ課税されるのを防ぐため、各国が導入できる制度です。
日本においては、国税の租税特別措置の税額控除等の適用により各企業グループの実効税率が15%を下回った場合に、QDMTTにより実効税率を15%まで引き戻す効果があります。
グローバルミニマム課税は、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1200億円)以上の多国籍企業が世界のどこに拠点を置いても、最低税率15%以上の課税を確保する仕組みです。
世界で10,000社、日本では900社程度(親会社ベース)が該当するとされています。
2026年4月1日以降開始する対象会計年度から適用され、同申告及び納付は、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3ヶ月(一定の場合は1年6ヶ月)以内に行うこととされています。
対象会計年度は、多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結財務諸表の作成期間をいいます。
これらのルールの導入により、法人税率引下げへの「底辺への競争」が底上げされることから、一定の税収が確保され、税負担の不均衡を是正し、公平な競争環境が実現されることが期待されます。
外国子会社合算税制(CFC税制)の見直し
また、グローバル・ミニマム課税は、CFC税制と並存する仕組みとされていますが、新ルールの事務負担軽減等を踏まえ、2025年度税制改正では、CFC税制に関し、日本親会社の合算事業年度が、外国子会社(特定外国関係会社)の事業年度終了日から4月を経過する日を含む事業年度に改正されます。
特定外国関係会社の課税対象金額等は、その日本親会社の収益の額とみなして、特定外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から現行では2月を経過する日を含む日本親会社の事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されますが、この「2月」が「4月」に改正されます。
また、日本親会社の申告書に添付又は保存を要する特定外国関係会社の書類が簡素化され、次の書類が除外されます。
① 株主資本等変動計算書及び損益金の処分に関する計算書
② 貸借対照表及び損益計算書に係る勘定科目内訳明細書
日本親会社の2025年4月1日以後に開始する事業年度に係る特定外国関係会社の課税対象金額等(その特定外国関係会社の同年2月1日以後に終了する事業年度に係るものに限る。)について適用されます。
経過措置が講じられるようですが、合算事業年度の変更により実務に影響がありますので注意が必要です。