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税務調査の対象もAIが選定

 国税庁は、2023事務年度(今年6月までの1年間)の所得税及び消費税の調査状況を公表しました。

 

 所得税については、調査の選定にAIを活⽤するなど効率的な調査により、「実地調査」と 「簡易な接触」 を合わせた申告漏れ所得⾦額は9,964 億円(前事務年度9,041 億円)、追徴税額1,398億円(同 1,368 億円)と、過去最⾼でした。

 

 実地調査には、特別調査、一般調査、着眼調査の3種類があります。このうち、特別調査と一般調査は、⾼額・悪質な不正計算が疑われる事案を対象に、深度ある調査を⾏います。

 

 特に、特別調査は、多額な脱漏が⾒込まれる個人を対象に、1件当たり 10 ⽇以上の時間を確保して実施します。

 

 着眼調査は、資料情報や申告内容の分析結果に基づき、申告漏れ等が疑われる個人を対象に短期間で⾏う調査です。

 

 また、簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、⽂書、電話または来署依頼による⾯接を⾏い、申告内容を是正するものです。

 

 個人事業者の消費税についても、「実地調査」と 「簡易な接触」 を合わせた追徴税額は、423 億円(同 396 億円)と、過去最⾼となりました。

 

 特に、消費税無申告者に対する追徴税額は、1件あたり274万円と過去最高を記録し、適正な申告・納税を行っている納税者との間で強い不公平感が生じています。

 

 また、消費税の還付申告については、申告書の添付書類や保有する資料情報等に基づき厳格な審査を⾏い、申告内容に疑義がある場合には、還付を保留し、実地調査等を⾏うなどして還付原因等の解明・確認を実施しています。

 

 富裕層に対する調査の1件当たりの追徴税額は、707 万円となっており、所得税の実地調査(特別調査・一般調査)全体の 275万円に⽐べ、2.6 倍となっています。

 

 特に、海外投資等を⾏っている「富裕層」に対する調査の1件当たりの追徴税額は1,290 万円となっており、所得税の実地調査 (特別調査・一般調査) 全体の 275 万円に⽐べ、4.7 倍と大幅に上回りました。

 

 近年は、国外送⾦等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく⾮居住者⾦融⼝座情報)など、各国税務当局との連携が強化され、海外投資に絡む申告漏れの発覚が増加傾向です。

 

 このほか、暗号資産等取引を⾏っている個人に対する調査でも、1件当たりの追徴税額は662 万円と、 所得税の実地調査 (特別調査・一般調査)全体の 275 万円に⽐べ、 2.4 倍と高い追徴税額が確認されています。

 

 また、シェアリングエコノミー等の調査のうち半数近くをネット通販等が占めています。

 

 事業所得の1件当たりの申告漏れ所得が高額な業種は、2023事務年度も経営コンサルタントが1位となり3年連続です。

 

 1件当たりの追徴税額も申告漏れ所得⾦額3,871 万円、1件当たりの追徴税額1,040万円と高額です。

 

 昨今はコンサルによる脱税指南が問題となるなど、悪徳業者の存在が懸念されます。

 

 かつては風俗やキャバクラが1位の常連でしたが、経済社会の変化を反映しているのでしょう。

 

 国税庁は、過去の申告内容や調査データ、各種資料情報などをAIの機械学習により高度な分析を行い、効率的な調査を実施した結果、過去最高の追徴税額を記録しました。

 

 AIの活用は、今後もますます進み、より複雑化する脱税手法に対抗するための強力な武器となるでしょう。

 

 一方で、AIだけでは解決できない問題も存在するため、人材育成や国際的な協力など、多角的なアプローチによる脱税防止対策が求められます。