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在職老齢年金制度の見直し

在職老齢年金の具体例
出所:日本年金機構HP〜働きながら年金を受給する方へ〜

 厚生労働省は25日、社会保障審議会年金部会において、在職老齢年金制度の見直し案を示しました。

 

 この制度は、厚生年金保険に加入しながら働く高齢者の年金を減額するもので、給与(賞与を含む)と厚生年金の合計が基準となる月50万円を超えると年金が減額または支給停止となります。

 

 例えば、図のように、給与(50万円)と老齢厚生年金(14万円)の合計が1月あたり64万円で、基準額の50万円を14万円超えています。

 

 そのため、支給される老齢厚生年金から14万円の2分の1の額である7万円が支給停止されます。

 

 ※在職老齢年金の計算対象となる給与には、1月あたりの賞与(1年間の賞与を12で割った金額)を含みます。また、税金等を控除する前の額で計算されます。

 

 自営業やフリーランスなど、厚生年金に加入せずに働く人はこの制度の対象にはなりません。

 

 なお、老齢基礎年金(6万円)は、給与(賞与を含む)の額にかかわらず全額受給されます。

 

 この基礎年金については、将来的に支給額が大きく目減りすることが見込まれるため、これを3割底上げし、実質的な目減りを1割に抑える案も示されました。 

 

 在職老齢年金制度のもとでは、基準額を超えないよう労働時間を調整する人が一定程度おり、高齢者の働く意欲がそがれているとの批判がありました。

 一方で、少子高齢化の加速もあって人手不足は深刻です。

 

 見直しの背景には、高齢者の手取りを増やし、働き控えを是正することで、人手不足問題の解決につなげる狙いがあります。

 

 制度の見直しにより、働く高齢者の年金給付が増える一方で、将来世代の給付水準が低下する課題があります。

  

 厚生労働省は、減額が始まる基準額を現行の50万円から62万円や71万円に引き上げる案を検討していますが、減額を完全に廃止する案は見送られる可能性が高いようです。

 

 制度の廃止には年間4500億円が必要とされます。また、年金財政を安定させるため、厚生労働省はあわせて高所得者の保険料負担を引き上げる案も示しました。

 

 厚生年金の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に18.3%をかけた金額を事業主と会社員とが半分ずつ負担しています。

 

 現在の標準報酬月額は、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)まで分けられ、上限は65万円で、本人の保険料は月5.9万円です。

 

 見直し案は、上限を75万円~98万円の間に引き上げるもので、現在の65万円から75万円引き上げた場合、保険料は月6.8万円に上がりますが、将来受け取る年金は年6.1万円増える試算があります。

 

 この見直し案は、与党との調整を経て年末までに方向性を固め、年明けの通常国会に提出される予定です。

 

 これまでの議論では、基準額50万円の対象者は、給与と年金を合計すれば比較的所得に余裕があり、単純な見直しは高所得の高齢者の優遇となるという観点等から、見直しに否定的な意見もありました。

 

 高所得者優遇との批判を避けるため野党には慎重論があり、衆院は少数与党の状況にあるため、今後の議論は曲折する可能性があります。

 

 基準額は2024年4月に50万円に引き上げられましたが、基準額が47万円だった2022年度末の在職老齢年金の対象者は65歳以上で50万人に上り、働く年金受給権者の16%にあたります。

 

 基準額は現役男性の平均月収(賞与を含む)をもとに決められたもので、名目賃金変動率に従い毎年度改定され、近年の賃金上昇を反映して2年度連続での引き上げとなりました。

 

 年金を増やす方法として、政府は繰り下げ受給を呼びかけていますが、選択する人はまだ少ないようです。2022年度で選択した人は厚生年金では1.3%でした。

 

 在職老齢年金制度による減額があると、その部分は繰り下げ増額の対象外となってしまいます。

 

 高齢者の就業率は長期的に見れば上昇傾向であり、労働市場における高齢者の存在感は増しています。

 

 しかし、在職老齢年金制度によって高齢者の就労意欲が減退する一方、年金受給の繰り下げも行われなくなるというのであれば、在職老齢年金制度は高齢化への対応に逆行するとの指摘もあります。

 

 厚生労働省は、現行ルールで年度末時点で厚生年金加入者の平均標準報酬月額の2倍相当額が上限等級額を上回る状態が続く場合、等級を追加できる制度も含めて見直しを検討しています。

 

最後に

 これらの案は、年金を受給する人の生活水準の低下を防ぎ、将来世代のために年金制度を持続可能なものにすることを目的としていますが、少子高齢化が進むなか、年金財政の悪化を防ぐための抜本的な制度改革が望まれます。