医療費が高額になった際の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、厚生労働省が上限額を引き上げることを検討しているとの報道がありました。
高額療養費制度は、病気やケガなどで医療費が高額になった場合、経済的な負担を軽減するための制度です。
医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額が公的医療保険(健康保険組合・協会けんぽ・共済組合・国保・後期高齢者医療制度など)から支給されます。
毎月の上限額は、70歳以上かどうかや所得水準によって異なり、70歳以上の場合には、外来だけの上限額も設けられています。
上限引き上げの背景には、医療費の高騰や現役世代の保険料負担の軽減、患者の負担能力の変化などが挙げられます。
高齢化や新しい治療法の普及により、医療費は大幅に増加しています。
このため、医療費の増加に伴い、現役世代の保険料負担が重くなっている状況です。
一方、賃金上昇などにより、患者の負担能力が向上している側面もありますが、年収が低い層の引き上げ幅は緩和する方向で検討が進められています。
医療費が増加し続ける一方、高額療養費制度で患者負担が一定額に抑えられることで、患者の実質的な負担割合は低下傾向にあるといわれています。
早ければ2025年度にも実施することを目指していますが、与野党間の調整など、今後の議論の行方次第です。
高額療養費の支給対象となる医療費
高額療養費制度の支給対象となる医療費は、保険適用される診療に対し、患者が支払った自己負担額です。
医療にかからない場合でも必要となる「食費」、「居住費」、「差額ベッド代」、「先進医療にかかる費用」など、保険適用外の費用は対象外となります。
高額療養費の申請方法
加入している公的医療保険に、高額療養費の支給申請書を提出または郵送することで支給が受けられます。
病院などの領収書の添付を求められる場合もありますので注意が必要です。
加入している公的医療保険によっては、「支給対象となります」と支給申請を勧めたり、 さらには自動的に高額療養費を口座に振り込んでくれたりするところもあります。
なお、どの公的医療保険に加入しているかは、保険証(被保険者証)の表面で確認できます。
高額療養費を申請した場合、受診した月から支給までに少なくとも3か月程度かかります。
このため、後から払い戻されるとはいえ、一時的な支払いは大きな負担になります。
そこで、医療機関窓口での1か月の支払いが最初から自己負担限度額までとなる方法もあります。
「マイナ保険証」を利用するか、「限度額適用認定証」を利用する方法です。限度額適用認定証は、事前に公的医療保険に申請し、交付を受ける必要があります。
また、医療費の支払いが困難な場合には、無利息の「高額医療費貸付制度」 を利用できる場合があります。
詳しくは、加入している公的医療保険にお問い合わせください。
なお、高額療養費の支給を受ける権利の消滅時効は、診療を受けた月の翌月の初日から2年ですので注意が必要です。
医療費控除との違い
「医療費控除」とは、所得税や住民税の計算において、「自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために医療費を支払った場合」に受けることができる所得控除のことをいい、保険給付の一種である高額療養費とは別の制度です。
医療費控除では、保険適用されない、いわゆる自由診療でも対象になる場合があります。
高額療養費制度と医療費控除の併用は可能です。まずは、高額療養費制度を利用し、実際の負担額である上限額が医療費控除の対象となります。
最後に
高額療養費制度の上限額の引き上げは、医療費の高騰を根本的に解決するものではなく、長期的な視点で見ると医療保険財政への圧力は依然として残ります。
患者の負担増や制度の公平性など、さまざまな課題も同時に抱えており、今後、議論は曲折が予想されます。