厚生労働省が、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢を現状の65歳未満から70歳未満に引き上げることを検討しているとの報道がありました。
これは、働き方改革による高年齢者の就業機会の拡大に対応し、より多くの人が老後資金を準備できるようにするためです。
iDeCoは、自分で運用商品を選んで、老後資金を積み立てることができる私的な年金制度です。
拠出額が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税になるなど、税制優遇が魅力です。
そのため、老後資金の準備として人気が高まっており、2023年度末で約329万人が加入しています。
しかし、これまでの制度では、国民年金の加入資格が原則60歳でなくなるため、自営業者などは60歳以降にiDeCoに加入することができませんでした。
今回の改正により、より多くの人がiDeCoを活用できるようになり、老後資金の準備がより円滑になると期待されています。
iDeCoの加入には国民年金被保険者である必要があり、iDeCoの加入可能年齢については、
①第1号被保険者(自営業者等)は60歳未満
②第2号被保険者(会社員・公務員等)は65歳未満
③第3号被保険者(専業主婦(夫))は60歳未満
④任意加入被保険者:保険料納付済期間等が480月未満の人は任意加入が可能(65歳未満)
となっており、それぞれ異なります。
今回の改正は、60歳から70歳まで引き続き老後の資産形成を継続しようとする人で、老齢基礎年金やiDeCoを受給していない人を対象とします。
第2号被保険者で65歳以降も厚生年金に加入している会社員や、60歳以上で公的年金に加入していない退職者や自営業者、フリーランスなどを想定しているようです。
現在のiDeCoの拠出限度額は、
①第1号被保険者(自営業者等)は月額6.8万円
②第2号被保険者(会社員・公務員等)のうち企業年金ありの人は月額1.2-2.0万円、企業年金なしの人は2.3万円
③第3号被保険者(専業主婦(夫))は月額2.3万円
となっています。
拠出限度額についても今後引き上げる方向で検討されており、より多くの資金をiDeCoに積み立てることができるようになる可能性があります。
2024年12月からは、会社員・公務員等のうち、企業年金ありの人は拠出限度額が2.0万円に統一される予定です。
また、iDeCoの受給を開始できる年齢については上限年齢が75歳となっていますが、65歳以下で受給を開始する人が大多数(91.9%)であり、現時点で70歳以上での受給は極めて少数(1.5%)です。
少子高齢化が進み、年金だけでは老後生活を送るのが難しくなっている現代。
老後資金の準備はもはや他人事ではありません。今回の改正は、このような社会状況の変化に対応し、より多くの人が安心して老後を迎えることができるようにするためのものです。
iDeCoのメリットは税制優遇がですが、一方で、すぐに解約できず、原則60歳まで運用を続ける必要があることから中長期的な視点が必要です。
また、投資信託などを選ぶ場合には元本保証がないなど運用リスクがあります。
さらに、初めての人にとっては制度や手続きがやや複雑に感じる場合があります。
加入可能年齢や受給開始年齢の引き上げには、いくつか注意点も指摘されています。
①手続をする人が高齢になることにより、iDeCo加入の手続きや、受給時の退職所得申告書等の記載、異なる税制度への理解を前提とした受取方法(一時金・年金)の選択などの手続きがより困難となる可能性があります。
②加入から給付までの期間が開くことや、本人の健康状態等により、iDeCo加入の事実を家族と共有できていないなどの問題が増える可能性があります。
③受給開始年齢を引き上げた場合に、退職所得控除の調整規定の対象期間も併せて延長するとすれば、過去に納税者に交付された「退職所得の源泉徴収票」が保存されておらず、適切に税額を計算できないケースが生じる可能性があります。
退職所得控除の調整規定の対象期間の範囲は、2020年度改正でDCの受給開始年齢の引上げに伴い、前年以前14年内分から前年以前19年内分になっています。
④遺族がいない中で亡くなる等により、給付されずに供託が増加する可能性があります。
最後に
今回の制度改正により、iDeCoはより多くの人にとって身近な老後資金の準備手段となることが期待されます。
しかし、iDeCoはあくまで資産形成の一つであり、ご自身の状況に合わせて、様々な選択肢を検討することが重要です。
老後資金の準備は、早ければ早いほど有利です。今後、制度の具体的な内容が明らかになるにつれて、より多くの人がiDeCoに関心を持ち、利用していくことが期待されます。