最近、年金の第3号被保険者制度に関する議論が活発化しているように感じます。
労働組合の中央組織・連合は、2023年末にまとめられる公的年金制度改革に関連し、第3号被保険者制度の廃止を提起する方針を確認しました。
これは、第3号制度がもたらす労働力不足の問題や不公平感を解消するためです。
具体的には、まずは年収130万円の扶養認定基準を段階的に縮小し、最終的に制度を廃止する方向で検討されています。
特に、女性の社会進出が進み、キャリア形成の多様化が求められる現代において、第3号制度は女性の就業を阻害する要因の一つとされています。
また、経団連も、女性の就業促進の観点から、年収の壁を超えて働くメリットを積極的に広報・啓発し、誰もが希望通りに働き、活躍できるよう、就業環境の整備を進めることを提言しています。
あわせて、年金制度では適用拡大を加速させ、第3号被保険者を縮小していくべきだとしています。
年金の3号廃止に関する議論は、主に日本の年金制度の公平性や持続可能性を向上させることを目的としています。
現在、第3号被保険者制度は、会社員や公務員の配偶者であって、自らは収入のない主婦(主夫)などが対象です。
第3号被保険者は、保険料を支払うことなく年金を受け取ることができ、これは1985年の年金改正により導入されました。
しかし、この制度にはいくつかの問題が指摘されています。
公平性の欠如
第3号被保険者は、自ら保険料を負担せずに年金を受け取れるため、保険料を支払っている第1号・第2号被保険者との間で負担の不公平が生じるとされています。
また、共働き夫婦と片働き夫婦の間で受けられる年金の差が不公平であると感じる人も多く、特に現代のように女性の就労率が上がっている状況では、この制度が時代遅れだとする声もあります。
また、自営業の妻は第3号被保険者となれないことも、不公平感を生じさせている。
制度の持続可能性
少子高齢化が進む日本では、年金制度全体の持続可能性が大きな課題です。
第3号被保険者は保険料を支払っていないにもかかわらず年金を受け取るため、全体の財政負担が増大しています。
今後も制度が維持されると、現役世代に過度な負担をかける可能性があるため、改革が求められています。
労働市場への影響
第3号被保険者制度は、特に女性の就労意欲に対して逆風になるとの指摘もあります。
保険料の負担を避けるために、あえて年収を抑える女性が少なくなく、結果として労働市場への女性の参加が制限されているという現実があります。
このため、制度の廃止により働くインセンティブが増加し、労働力不足が解消されると期待されています。
厚生労働省の試算によると、年収106万円の壁によって労働時間を抑えるパート労働者は最大で約60万人いるとされています。
この「年収の壁」は、特に繁忙期に労働力不足を深刻化させる要因となっており、賃金が上昇する中で、労働時間を抑えなければ年収の壁を超えてしまう現実があります。
このような状況が続く中、第3号被保険者制度の廃止は、これらの壁を解消し、より多くの人々が就労できる環境を整えるとされています。
3号の廃止が実施されると、第3号被保険者も保険料を納める必要が生じ、共働き家庭との公平性が改善される一方で、収入のない専業主婦・主夫にとっては大きな負担となる可能性があります。
このため、廃止を実行する際には、低所得者や就労機会が限られる人々への支援策を同時に講じる必要があると考えられています。
最後に
政府は2020年代に最低賃金を1500円に引き上げる目標を掲げており、時給が増加する中で年収を抑えるためには、労働時間をさらに減らす必要が出てきます。
また、第3号被保険者制度が人手不足問題を深刻化させていることも無視できません。賃金が上昇するにつれ、労働時間を削減しようとする動きが増加し、これが企業の労働力不足に拍車をかけています。
第3号被保険者制度は、専業主婦を前提に設計された時代遅れの制度であり、その廃止は労働供給の拡大を促し、女性の社会進出にも寄与すると期待されています。
ただし、第3号被保険者制度の見直しは、厚生労働省が示した財政検証の5つのオプション試算には含まれておらず、今回の公的年金制度改革で具体案をまとめるのは難しい状況かもしれません。
しかし、労働市場の変化に対応し、年金制度の公平性向上だけでなく、労働力不足の解消や働く女性の支援策として、長期的な視点で制度の見直しが求められています。
抜本的な年金制度改革を先送りすることなく、政府の積極的な対応が来年の年金改革に向けて求められるでしょう。