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日ロ租税条約一時停止で二重課税の発生

日本とロシアとの租税条約の概要
出所:税務省HP〜ロシアとの新租税条約のポイント_原条約の発効日:2018年10月10日〜

 最近の報道によれば、日ロ租税条約の一時停止により、2024年3月期にメガバンクを中心に銀行界全体で約10億円規模の二重課税が発生しているようです。

 

 日ロ租税条約は、二重課税の除去や脱税・租税回避の防止を目的とした、日本とロシア間の条約で、2017年9月7日に締結され、2018年10月10日より発効しました。

 

 しかし、昨年8月、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻により対ロ制裁を科している日本や米国、欧州諸国など38カ国との租税条約の一部条項を停止する大統領令に署名しました。

 

 2023年8月8日付の大統領令第585号により、日ロ租税条約のほとんどの内容の効力が停止されました。

 

 これにより、利子、配当、およびロイヤルティーの日本側への支払いに対しては、ロシアの法令に基づく源泉徴収が行われることとなり、また、航空・海上輸送に関する軽減税率も撤回されました。

 

 ここで問題となるのが、二重課税を回避するための外国税額控除制度の取扱いです。

 

 外国税額控除の対象となるのは、外国の法令に基づき、法人所得を課税標準として課される外国法人税です。

 

 一方で、日本の法人税法では、上記の外国法人税であっても、租税条約に基づき条約相手国等で課すことができる額を超える部分もしくは免除される額は、外国税額控除の対象外と規定されています。

 

 現状、日本の財務省は「日ロ間の条約は破棄されておらず、引き続き有効である」としており、この制度は適用されないとの立場を取っています。

 

 そのため、限度税率を超える額や免除された額については、外国税額控除の対象外となり、二重課税が発生している状況です(法人税法施行令第142条の2第8項第5号)。

 

 なお、2025年度の税制改正要望において、国内金融機関に追加的な税負担が生じていることから、外国税額控除に関する国際情勢を考慮した措置の必要性が提言されています。

 

 この問題は金融機関に限らず、今後も不安定化する国際情勢により同様の事態が起こる可能性があるため、国全体で早急に制度や環境整備の検討が求められています。