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金融所得課税の強化?

1億円の壁」と呼ばれる現象をイメージする図
出所:2022年10月18日政府税制調査会の財務省資料3頁

 金融所得課税に関する議論が再び注目を集めています。

 

 これは、所得格差の拡大や税負担の公平性の観点から取り上げられており、特に高所得者において金融所得の割合が高くなる傾向があるため、税制の累進性が失われる可能性が指摘されています。

 

 金融所得とは、利子、配当、譲渡益などから得られる所得を指し、現行制度では一律20.315%の税率が課されています。

 

 この税率は、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%で構成され、課税方式としては申告分離課税が主流となっています。

 

 所得税の最低税率は年間合計所得が194万9,000円までは5%、最高税率は4,000万円以上で45%です。

 

 一方で、株式譲渡益や配当金などの金融所得に関しては、総合課税、申告分離課税、申告不要の選択が可能ですが、申告分離課税を選択した場合の所得税率は一律15.315%(復興特別所得税0.315%を含む)と、給与所得などに課される最高税率よりも低く設定されています。

 

 高所得層では、所得が1億円を超えると所得税負担率が逆に低下する「1億円の壁」と呼ばれる現象が、以前から問題視されています。

 

 これは、高所得層ほど金融所得の割合が高く、金融所得に適用される税率が労働所得に適用される累進税率よりも低いことが原因です。

 

 この不公平感が格差を拡大させる要因となっているため、金融所得課税の見直しが求められています。

 

 所得の再分配を強化するため、特に高所得者への課税強化が焦点となり、格差是正を目的とした税制改革案が議論されています。

 

 金融所得課税の強化に向けた主な議論には、

(1)現行の分離課税方式を維持しつつ税率を引き上げる方法と、

(2)金融所得を他の所得と合算し、累進課税を適用する総合課税化の方法があります。

 

 前者は所得再分配機能を強化する一方で、金融市場への影響が懸念されています。

 

 後者は所得の多寡に応じた公平な税負担を目指し、より多くの収入に対して高い税率を適用することで格差是正を図ります。

 

 金融所得課税に関するこれらの議論は、国内だけでなく国際的な傾向とも関連しています。

 

 多くの国では、金融所得に対して分離課税を採用し、給与や事業所得よりも低い税率を設定しています。

 

 これは、金融所得に対する税負担を軽減することで、貯蓄から投資へのシフトを促し、経済活性化を図る意図があります。

 

 また、高い税率を設定すると資金が海外に流出し、国内の投資が抑制される可能性があるため、国際競争力を維持するための対応でもあります。

 

 具体的な対応策として、2023年度の税制改正では「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」措置(超富裕層に対するミニマム税)が導入され、2025年分の所得から適用されることになりました。

 

 ミニマムタックスの対象者は、年間合計所得が約30億円を超える人と見込まれています。

 

 合計所得金額とは、株式の譲渡所得のみならず、土地建物の譲渡所得や給与・事業所得、その他の各種所得を合算した金額であり、スタートアップへの再投資やNISA関連の非課税所得は対象外です。

 

(合計所得金額-3.3億円)×22.5%-通常の所得税額=追加納税額

 

 ただし、この施策は金融所得に限定されたものではありませんが、高所得者の税負担を一定程度適正化することが期待されています。

 

 課題としては、「1億円の壁」による税負担の不公平感や、金融市場への影響が懸念される税率引き上げのバランスがあります。

 

 経済成長の促進と税負担の公平性のバランスを取りながら、金融所得課税の制度設計が求められています。