巨大IT企業を対象とするデジタル課税の国際的な導入は、依然として困難な状況が続いています。
7月25日から2日間の予定で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、デジタル課税の導入加速に向けた議論が行われました。
デジタル課税に関する国際条約の早期実施を含む、国際租税協力に関するG20閣僚リオデジャネイロ宣言が発表されました。
企業の生産・販売等の拠点がなくても、サービスの利用者がいる国・地域に課税権を配分する仕組みで、約140の国・地域が2021年に導入に合意しました。
しかし、発効に必要な他国間条約の内容を固め、各国が署名する期限を2024年6月末としていましたが、対象企業の多い米国との調整が難航し、期限を守れませんでした。
鍵を握る米国内での議論は進んでおらず、欧州などでの独自課税の復活と報復措置の連鎖への懸念がくすぶっています。
バイデン政権は大手IT企業から巨額の献金を受けており、11月の大統領選挙前に合意するのは難しかったとされます。
もしトランプ政権に戻ることになれば、国際協調は難しく、デジタル課税が頓挫する可能性があります。
また、ハリス政権になっても、しばらくは膠着状態が続くと考えられます。
このまま漂流すれば、米国は、英国やフランスなどがすでに独自のデジタルサービス課税(DST)を導入している国や、新たにDSTを導入する国との間で、税の戦争に発展する可能性が指摘されています。
また、G20では超富裕層への累進課税を進めることで一致しました。
議長国ブラジルでは、資産管理会社に株式を移すなどの課税逃れが行われ、貧富の差が拡大し、億万長者になるほど実効税率が下がり、累進課税など税の再配分機能が損なわれているとの問題意識があります。
独立研究機関「EUタックス・オブザーバトリー」は、10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ超富裕層では、個人の実効税率が0%から0.5%に過ぎないとし、法人税と同様の国際最低課税で合意できれば、税収を著しく押し上げることができるとの見解を示しています。
同組織の研究結果によると、超富裕層2700人余りの富に対して2%課税すれば、年間2500億ドル(約37兆5000億円)程度の税収押し上げが見込まれると分析しています。
超富裕層は米国内に多く、米国の支持なしに国境を超えた超富裕層課税を実現するのは困難ですが、G20で超富裕層に対する課税強化について合意したことは、近年ますます深刻化する世界的な所得格差問題に対処するための重要な一歩です。
格差是正に向けた国際協調の実現が望まれます。