法人税の国際的な引下げ競争に歯止めをかけ、税制面における企業間の公平な競争条件を実現するため、2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、グロー バル・ミニマム課税(第2の柱)について国際合意が行われました。
日本においては、国際的な合意に沿って、3つのルールを導入する方向で検討が進められており、2023年度税制改正では、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)が法制化されました。
グローバル・ミニマム課税は、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上(約1,200億円)の多国籍企業を対象とし、一定の除外措置を講じた上で、各国の法令に基づき最低税率15%以上の課税を確保する仕組みです。
その他のルールである軽課税所得ルール及び国内ミニマム課税については、OECDにおいて詳細が議論される見込みであり、国際的な議論を踏まえ、2024年度以降の法制化に向けた検討が進められています。
所得合算ルール(IIR)は、子会社等の所在地国が軽課税国である場合、日本に所在する親会社等に対して、国際的に合意された最低税率(15%)に至るまで上乗せ課税を行う制度です。
2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。対象会計年度は、多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結財務諸表の作成期間をいいます。
その対象会計年度の国際最低課税額がない場合を除き、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3月以内に国際最低課税額申告書を提出する必要があります(初回提出時には1年6月以内)。
また、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等の名称、国別の実効税率、グループ全体の国際最低課税額等の情報を税務当局に提供する情報申告制度が創設されました。上記の提出期限までに申告する必要があります。
グローバルミニマム課税が導入されることで、各国による法人税引き下げ競争が抑制され、タックスヘイブンへの利益移転が難しくなると考えられます。
さらに欧米諸国は日本よりもタックスヘイブンによる利益移転が多いとされているため、グローバルミニマム課税導入による欧米企業の負担増加は避けられず、国際競争力が低下するものと考えられています。
その結果、日本の国際競争力が相対的に向上することが期待できます。
2023年度の税制改正大綱でも、グローバルミニマム課税の導入は「法人税の引下げ競争に歯止めをかけるとともに、日本企業の国際競争力の維持及び向上にもつながるものである」と明記されています。
しかし、法令遵守コストは、租税回避により税負担を免れている多国籍企業にも、税逃れをしていない多国籍企業にも等しくのしかかってきます。
新ルールで大幅な税負担の増加となる日本企業は少ないと予想されますが、海外子会社の詳細な会計や税務データの集約など、新たな事務コストが大きく、準備作業は煩雑になります。
グローバルに事業を展開している多国籍企業グループは、進出している国に合わせて税額を計算する事務負担が発生しています。
進出国が数十カ国に達する場合、事務負担軽減のため適用免除基準が設けられています。
適用免除基準は、一定の条件を満たす場合には、その構成会社等の所在地国の国際最低課税額は0とされ、国際最低課税額の計算が不要になることです。
また、グローバル・ミニマム課税は、外国子会社合算税制(CFC税制)と並存する仕組みとされていますが、新ルールの事務負担軽減等を踏まえ、CFC税制について、
①特定外国関係会社(ペーパーカンパニー等)の適用免除要件である租税負担割合の引下げ(30%→27%)、
②書類添付義務の緩和等の措置が講じられ、
2024年4月1日以後に開始する事業年度に係る課税対象金額等を計算する場合に適用されます。
両制度の趣旨は異なるとされるものの、実効税率を算定し、同税率が低い場合に親会社の本国で課税を行う点は共通しています。
日本企業の多くは、新たな税負担の増加はほとんどない一方、対応のための事務負担が大幅に増加すると感じています。各社の担当者からは、既存の税制との調整等、簡素化が求められています。
グローバル・ミニマム課税とCFC税制の申告時期等の関係整理、両制度間における情報の利活用等について検討する必要があります。
2024年度税制改正大綱では、「『第2の柱』の法制化に伴う必要性も踏まえ、必要な見直しを検討する」と記載されており、来年度以降の改正が期待されます。