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移転価格調査とその後の対応

移転価格税制の仕組みの図解
出所:国税庁HP〜移転価格ガイドブック〜

 報道によると、工作機械大手のファナックが台湾現法との取引をめぐり、東京国税局から2021年3月期までの3年間で97億円の申告漏れを指摘され、22億円を追徴課税されていたことがわかりました。 

 

 半導体生産に用いる工作機械の部品について通常の価格と異なる金額に設定し、本来はファナックに帰属すべき利益を台湾現法に移転して日本の納税額が少なくなったと判断されたようです。

 

 移転価格税制は、このような外国の子会社(国外関連者)との取引を通じた所得の海外移転を防止するため、国外関連者との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度です。 

 

 台湾企業をめぐる適用は珍しく、世界的な半導体需要の増加による好景気を背景に今後国税当局が台湾企業との取引に注目する可能性は高いといわれています。

 

 国税庁によると、2022年7月までの1年間に移転価格税制によって申告漏れ等が指摘されたのは、149件で申告漏れ所得の総額は392億円でした。

 

 今回の課税により、台湾現法側ですでに課税の対象となっていることから、いわゆる二重課税が発生しています。

 

 今後、その二重課税を解消するための手続きとしては、日台租税協定による相互協議と裁判などの国内救済手続があります。

 

 相互協議は、課税を行った税務当局と取引の相手国側の税務当局に対して、租税条約に基づいて二重課税を排除してもらうように協議を要請する手続きです。

 

 一方、国内救済手続は、課税処分を行った税務当局に対して、あるいは国税不服審判所・裁判所に対して、移転価格の課税処分の取り消しを求める手続きです。

 

 国税庁では、申告状況、過去の調査情報、ローカルファイル(独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類)、CbC レポート(国別報告事項)及びマスターファイル(事業概況報告事項)、マスコミやその他の公開情報など様々な情報を活用しています。

 

 例えば、次のような観点を含め、納税者とその国外関連者の機能・リスクも勘案しつつ、多角的に検討を行い、移転価格調査に係る調査必要度を判定しています。

 

・日本法人が赤字又は低い利益水準となっていないか

・国外関連者の利益水準が高くなっていないか

・国外関連者への機能・リスクの移転などの取引形態を変更している一方、それに伴い適切な対価を授受していないことが想定されないか

・軽課税国の国外関連者に多額の利益剰余金が存在すること等により、国外関連者に所得が移転していると想定されないか

・国外関連者に所得を移転させるタックスプラニングが想定されないか

・過去に移転価格課税を受けているにもかかわらず、当事者の利益水準等に変化が見られないなどコンプライアンスに問題が想定されないか

・日本法人と複数の国外関連者間で連続した取引(連鎖取引)を行い、利益配分状況や国外関連者の機能などが申告書上では解明できず、確認を要さないか

 

 移転価格課税を受けると、二重課税を解消するための相互協議や国内救済手続きには多大な時間やコストがかかることから実務的にはハードルが高いといえます。

 

 したがって、国外関連者との取引価格についてのルール(グローバルな移転価格ポリシー)を策定し、適切に移転価格文書化(ローカルファイル)を行い、移転価格課税を未然に防止することが費用対効果の観点からとても重要です。